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変わることのない良さがある Yo La Tengo 『There's A Riot Goin' On』

There's A Riot Going On [帯解説・歌詞対訳 / オリジナルステッカー封入 / 国内盤] (OLE13482)
There's A Riot Going On [帯解説・歌詞対訳 / オリジナルステッカー封入 / 国内盤] (OLE13482)

USインディーの生ける伝説、Yo La Tengoのオリジナルアルバムとしては5年振りの新譜『There's A Riot Goin' On』がリリースされた。

この新譜タイトルはSly & The Family Stoneのアルバム『There’s A Riot Going On』と同タイトルとなっており、Matadorは、Slyのアルバムがリリースされた1971年の混沌とした時代にある怒りと絶望に取って代わるものを音楽を通じて提案したいというバンドから世界へ向けた強いメッセージが込められているとのことだ。

アルバムを通して聴くと、いつの時代も変わらぬヨラテンゴ節で安心する。
言葉にするなら、ドリーミーかつポップな曲調だがどこかサイケな音の配置がされており、その部分が堪らないほど愛おしい。
しかし、今作はいつもよりほんの少しミニマルがフューチャーされている気がするが、そこらのバンドがミニマルに急に傾倒したときのような嫌らしさは全くなく、あくまで楽曲に自然に寄り添うように心地よくリフレインが耳に残る。その辺りはベテランバンドの妙とてでも言うのだろうか。

YouTube公開曲としてはアルバム収録4曲目"For You Too" が公開されている。

歪んだベースに浮遊感のあるボーカルが乗り、ギターのアルペジオフレーズがドリーミーにメロを奏でる秀作だ。

もちろん、この曲はアルバムの魅力のほんの一部であり、ヨラテンゴはアルバムを通して聴くのが一番心地よく感じれると思う。

近々来日も決定しており、非常に楽しみだ。
春の訪れは良い音楽と共に楽しもう。

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3月は何故かジャズ強化月間だったので記録しておく

3月の新譜がまだ買いに行けていない。

というのも、年度末の忙しなさによるものか、自宅にいる間癒しを求めてひたすらジャズのアルバムを掛けていたからである。

その中でよく聴いた4枚を備忘録として書いておこうという次第だ。
正直超有名版しか聴いていないし、にわかなのでチョイスも渋いということはない。

1. Bill Evans『Waltz For Debby』

WALTZ FOR DEBBY

2. John Coltrane『Ballads』

BALLADS

3. Stan Getz / João Gilberto『Getz / Gilberto』

Getz/Gilberto

4. The Don Friedman VIP Trio『Scarborough Fair』

スカボロー・フェア

3月末には気になっている新譜も出るし、そろそろDIGモードに入りたい。

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くるり新曲『その線は水平線』は10年後も聴いていたい名曲

その線は水平線
その線は水平線

くるりほどメンバーチェンジが激しいながらも、自身の音楽性を崩さず評価されるバンドもいない。

くるり通算の31枚目シングルとなる『その線は水平線』。
MVを見て、これはアルバムを待ちきれないとなり購入を決めた。シングルを買うのは何年振りだろうか。

今作は久しぶりに原点回帰したように思える、ギター主体としたスローなBPMが気持ちいい曲だ。
ざらっとした感触のコードを弾くギターに、トランペットとリードギターのメロディが絡み合い、優しく包むようなボーカルが印象的だ。

特筆すべきは、曲構成力だ。
1番と2番でメロディを少しだけ変えており、派手な音色ではなく、その曲による構成で印象を変えている。
近年は京都のオーケストラに交響曲を提供したり、その影響だろうか。
無駄のない音選びと、楽曲のクオリティはただのロックバンドでは手の届かないところのレベルまでいってしまったと言っても過言ではないだろう。

音楽には少なからず流行り廃りがある。
しかし、くるりの音楽はそんな流行りとは別の次元で音を鳴らしていて、いつの時代にも合うような音楽だ。

それを認識するたび、勝てないなと思う。

シングルには別verの同曲も収録されており、そちらはさらにごりっとしたギターの歪みを押し出した曲調になっている。
こちらの方が昔のくるりっぽさがある気がする。

しばらくはリピートの曲が決定した。
いつまでも聴いていたい、心よりそう思う。

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堪らない中毒性 台風クラブ『初期の台風クラブ』

初期の台風クラブ
初期の台風クラブ

京都の3ピース日本語ロックバンド、台風クラブの1stアルバム『初期の台風クラブ
予備知識なしで手に取った今作だが、予想以上に聴いてしまっているので、これはレビューしておこうという次第である。

音楽性でいえば、古き良き日本語ロックの正統派後継者とでも言うべきか。
よく70〜80年代の影響を受けた、という文言があるが彼らに関していえば少し足りない気がする。
もうまんま昔の年代にいたかのような、そんな錯覚。
(実際には色んな年代からの影響が混ざり合っているため、はっきりとはどの年代とは言えないのだが。)

3ピースバンドならではのスカスカしたサウンドと、中毒性のあるギターフレーズ、踊り狂うベースライン、二癖もある歌声。
これだけの要素を持っていれば、アルバム1周もすればやられてしまう。
実際最近はこのアルバムばかり聞いており、頭の中では常に鳴りひびいている。

アルバムの中では、“台風銀座”、“まつりのあと”がお気に入りだ。
特に“まつりのあと”は、なんともいえないセンチメンタルさを持っていて、アルバムの最後の曲に相応しい一曲となっている。是非アルバムを手に取って聴いてみてほしい。

久しぶりにこう言った日本語ロックを聴いたが、やはりいい。

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The National『Sleep Well Beast 』USインディー重鎮によるロックの回答

SLEEP WELL BEAST [CD]
SLEEP WELL BEAST [CD]

2017年聴き逃していて後悔した音源第1位である。
USインディー重鎮として貫禄が出てきたThe Nationalによる約4年振りになるフルアルバム『Sleep Well Beast 』。

話題になっていたのになぜかタイミングが合わなくてスルーしていたが、MV視聴して気付いたら衝動買いしていた。

上記はアルバム9曲目“Guilty Party”。
エレクトロニック満載な綿密なビートに稀代のメロディメーカーのセンスが光る一曲だ。
初聴時は本当にあのThe Nationalか?と疑ってしまったが、ポップとインディー感の絶妙なバランスは紛れもなくThe Nationalであり、確実に過去作よりアップデートしている。

エレクトロニック色の強いアルバムかと蓋を開けてみれば、一曲目の“Nobody Else Will Be There”のようにセンチメンタルなピアノを主体とした曲もあるし、“Turtleneck”のようにイントロからギターによる必殺リフをかます曲もある多様なアルバムだった。

かといって統一感がないわけではなく、アルバム全体に広がる知的さと、壮大なサウンドスケープには唸るばかりだ。

一番のお気に入りは、先行シングルにて発表された“The System Only Dreams in Total Darkness”だ。
浮遊感のあるシンセフレーズと巧みに計算されたギターフレーズには脱帽するばかりである。

今後も2017年聴ききれなかった曲も積極的に聴いていきたい。
自身のキャリアをアップデートした彼らの作品を見逃していたところだったから。
また、是非ライブを見たいので来日講演に期待する。

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Rhye『Blood』は感傷的に浸れる大傑作

Blood
Blood

もうジャケットからして手に取らない理由がない。
LAのソウルユニットRhyeによるセカンドアルバム『Blood』。
2018年の新譜の中でもクオリティ・注目度は群を抜いていて、すでにベストアルバム候補に挙げられる傑作だ。

ソウル・R&Bの括りで語られるRhyeだが、今作はミニマルでシンプルなトラックを基礎に、浮遊感のある女性voが調和し、絶妙なバランスのポップアルバム仕上がっている。
前作『Woman』は多幸感に包まれる印象だったが、今作は一つ一つの音が体に染み渡り、時間に身を委ねられるようなとても感傷的な印象だ。

オススメ曲はリリックビデオが挙げられている“Song For You”だろうか。
繊細なピアノとギターのアンサンブルの癒し効果が凄まじい。

一聴してRhyeの放つエレガントな色気にやられてしまった。
また、洗練された一つ一つの音の組み合わせに脱帽するばかりである。
ソウル・R&Bのファンばかりではなく、インディーロック好きにも勧められる2018年の大名盤だ。

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warbear『warbear』を聴くと孤独が好きになる

warbear
warbear

Galileo Galileiフロントマン、尾崎雄貴のソロ名義となるwarbear初のアルバムであり、セルフタイトルとなる『warbear』。

キャリアとしてはGalileo Galilei最後のアルバム、『Sea and The Darkness』以来のリリースとなり、また彼の音楽を聴けるのは楽しみでもあったが、初のソロということもありどのように変わってしまうのかと少し躊躇してしまった。
しかし、その心配は全くの杞憂であったと断言する。

下記インタビューにもあるように、今作のテーマは『孤独』だ。

インタビュー中で二日酔いで曲を書いたというから、力の抜けたアルバムかと思ったら今作はどこまでも暗く、孤独という重いテーマを取り扱う。
しかし、彼が歌うことで温かく聴き手の孤独も受け入れられてしまうような錯覚に陥るのは本当に不思議だ。
歌詞に救いはないが、彼の孤独により聴き手の孤独を和らげるとでも言うのだろうか。

敢えて彼のキャリアであるGalileo Galileiの作品と比較するのであれば、今作は解き放たれたような自由さがあるのだ。
バンド時代はしっかりとアルバムの中にタイアップ曲を混ぜ込み、そのタイアップ曲も浮くわけではなく、子供がいたずらを隠すような遊びごころをアルバム内に仕込んでいたが、今作は世間の目を気にしない自由さがある。

自由さは作風にも現れており、彼の影響を受けた音楽が所狭しとと並べられており、もはやいい意味でジャンル分けできない。

下記リンクは今作の唯一のリード曲である“Lighits”。
エレクトロ色が強く、展開・アレンジの妙が光る一曲となっている。

また、今作のアルバム一曲目でもある“車に乗って”というタイトルにもグッと来てしまった。
彼はまた“車に乗って”走り出したのだ。

Galileo Galileiメンバーによる新バンド、Bird Bear Hare and Fishの活動開始が発表されており、今年も彼からは目が離せなくなりそうだ。

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