Radio Propagation -音楽レビューブログ

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次世代のセンス Mom『BABY LIKE A PAPERDRIVER』


https://plusanotraks.bandcamp.com/album/baby-like-a-paperdriver

2018年新譜初レビューはbandcamp、勢いに乗っているネットレーベルAno(t)raksより。
驚きの大学生20歳のアーティストMom2作目となる『BABY LIKE A PAPERDRIVER』だ。

前作『G・E・E・K 』も愛聴していてそのセンスにどハマりしていたため、今作のリリースを見逃すわけにはいかなかった。(前作も大変素晴らしいので要チェックである)
https://plusanotraks.bandcamp.com/album/g-e-e-k

彼の魅力を一言で表すならば、音楽に対する嗅覚であろうか。
例えば、ラップの持ち味であるフロウの部分を特にフューチャーして自身の楽曲に取り入れたり、トラック自体はLo-Fi Hip hopであったりとか。
そういったありそうでなかった、音楽ファンの痒いところに手を届かせた楽曲を作り出してしまうのが堪らなく魅力的なのだ。

アルバムの中でも、“気になるあの子(運動靴とディストピア)”と“マンアフターマン”は特にお気に入りだ。
独特のセンスのフックというか、気付いたら頭の中で鳴り続けるポップさを持ち合わせているのが末恐ろしい。


アルバム自体の流れも良く統一感のある仕上がりになっており、聴き続けても飽きない。
2018年一発目から楽しみにさせてくれる、そんな音源だった。

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緻密なアレンジ Kamasi Washington『Harmony of Difference』

Harmony of Difference [帯・解説付 / 国内仕様輸入盤CD] (YTCD171JP)
Harmony of Difference [帯・解説付 / 国内仕様輸入盤CD] (YTCD171JP)

ジャズに関して言えば、あまり普段から漁っているわけではないが、去年LAジャズシーン重要サックス&コンポーザー Kamasi Washingtonの新譜『Harmony of Difference』(というよりはある1曲)が最高だったという声を多く見かけた。

2016年でフジロックで来日した程度の記憶しかなかったが、最近ジャズを聴きたいモードに入っていたため購入を決めた。

一聴して見ると、今作は普段ジャズに慣れ親しんでいない私でも感動を覚えた良作だった。
ジャズに対して、アドリブのソロ回しや即興性に対して魅力を感じる人にとっては少々物足りないかもしれない。
しかし、Kamasi Washingtonの綿密かつ緻密な曲構成によってあまり見られない壮大さを勝ち取っている。

今作は全6曲のミニアルバム扱いの作品となっている。
1〜5曲目までに関しては、全て4分以内に収まっており、そこの部分に関しては少々私も物足りなさを感じた。
しかし、今作における聞きどころは6曲目“Truth”だ。
約14分もの壮大な曲になっており、緩やかなコード進行の上に様々な楽器による耽美なメロディが乗っかり、まさにハーモニーといったところか。
最大の盛り上がり時にはコーラスワークが重なりこれが大変素晴らしい。

古典的な作品では決してなく、まさにモダンジャズを象徴する1曲だろう。



不思議な魅力 Sam Prekop『Sam Prekop』

Sam Prekop
Sam Prekop

この音源は不思議な魅力を持っている。
The Sea and CakeのボーカルであるSam Prekopのソロアルバム『Sam Prekop』。
(The Sea and Cakeも記事として取り上げられてないのに感はあるが、、)

一聴して見るとジャズ・ボサノバっぽく聴こえ、ただジャズにしてはボーカルのメロがインディー気質だし、録音がかなりローファイ志向だ。
素朴な味わいで心を一気に掴まれ、生活にすっと染み渡るような、ずっと流していたい、そんな音源に仕上がっている。

The Sea and Cakeも音楽ジャンルは多岐に富んでいるが、ソロとバンドの明確な違いはリズムが緩やかに進行していくところだろうか。リズムが引っ張っていくというよりは、リズムは添えるような感覚だ。

一曲一曲は地味だが、このアルバムは曲単位ではなくアルバム通しで聴き流すような聴き方がオススメだ。癒し効果が凄まじい。

というわけで年始の仕事始めはSam Prekopを聴きながら通勤中です。

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クール感MAX! Spoon『Hot Thoughts』

Hot Thoughts [帯解説・歌詞対訳 / 初回生産盤のみボーナス・ディスク付 /2枚組紙ジャケ仕様 / 国内盤] (OLE11372)
Hot Thoughts [帯解説・歌詞対訳 / 初回生産盤のみボーナス・ディスク付 /2枚組紙ジャケ仕様 / 国内盤] (OLE11372)

去年出ている新譜の中で、USインディー界隈からはこのバンドを忘れてはいけない。
USインディ20年のベテランバンドのSpoonが約3年振りに新作『Hot Thoughts』をリリースした。

Spoonというバンドはベテランバンドと記したが、このバンドほど新しいセンスを追求してきたバンドも珍しい。
クラウトロックAORなどの要素を持ちながら主軸はギターロックだ。
そのバランス感覚が素晴らしいと思う。

今作『Hot Thoughts』は、彼らの作品の中でも一際クールな作品に仕上がっていると思う。
アレンジ自体はDIIVなどと通じる部分があるだろうか。ギターはリフレインフレーズが主体で何処までもソリッドなフレーズを聴かしてくれる。リズムトラックはシンプルだが、ベースフレーズと相まってダンスロックの側面も覗かせる。
飄々としたボーカルは時折ラウドな表情を見せ、そのクールさにやけてしまう。

下記はアルバム表題曲にもなっている“Hot Thoughts”だ。徐々に盛り上がりを見せてくれる高揚感が堪らない。

また、“Can I Sit Next To You”も素晴らしい。
アルバムの中でも一際クールなトラックだ。ギターの差し引きで盛り上がりを見せるのはツボでしかなかった。

いつもは下手ウマなバンドを聴くことが多いが、こういったクールなバンドも大好きだ。

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思い入れのある1枚 Galileo Galilei『Sea and The Darkness』

Sea and The Darkness(初回生産限定盤)(DVD付)
Sea and The Darkness

2016年、Galileo Galileiは解散した。
閃光ライオットの初代優勝バンドなんて肩書きは不要といって良いほど、後期の彼らの音楽性は独自のスタイルを貫き、これでもかというほど格好良かった。

解散のオフィシャルブログでの発言も印象的だ。下記の文章はオフィシャルブログでの解散発表からの引用である。

振り返ってみると、Galileo Galileiというバンドは僕たちにとって、子供の時に大切に乗っていた“おもちゃの車”のようなものだったのかもしれません。

けれど“おもちゃの車”では、庭の芝生から先へとは進めなかったのです。

僕たちはその先にある、どこまでも続く険しいコンクリートの道路を走ってみたくなってしまったのです。

閃光ライオットの名声、名実ともに売れエレクトロニックを取り入れた『Portal』、そこから自身の音楽性と向き合い続けた『ALARMS』『See More Glass』など彼らの過去を振り返り、恐らく自由にやってきたつもりだったが、《Galileo Galilei》という“おもちゃの車”には柵で囲われている範囲にしか走ることができないことを知ってしまったのだと思う。
その柵はレーベルの意向や、大人の事情、もしくはバンド音楽としての限界かもしれない。ともかく彼らは自由へ走り出せる車を求め《Galileo Galilei》を終了させた。

そして2016年Galileo Galileiとして最後のアルバムとなった『Sea and The Darkness』はリリースされた。
最後のアルバムらしく、その出来は大傑作と呼べるものに仕上がり、非常にこみ上げるものがあったのを覚えている。

エレクトロニックの風味は何処へやら、この作品は正当なギターインディーロックの継承作品とも言える出来に仕上がっている。しかし、日本の売れているバンドにありがちな所謂“ロキノン風味”は微塵も感じられず、海外のそれこそ私が好きなUSインディーの雰囲気が感じられるのだ。歌詞も総じて暗いが、ボーカル尾崎雄貴が歌うことにより救いのある楽曲に仕上がっている。

このアルバムの楽曲は思い入れがあり過ぎて、どの曲をピックアップするべきか迷うってしまうが、強いて挙げるなら“嵐のあとで”がいちばん好きだ。
最後のアルバムというのも込みすると、涙なしでは聴けない。

また“ブルース”の中で、

クソだ このアルバムはクソだ うそだよ

なんて一節があるのだが、尾崎雄貴らしく捻くれている感じがもろに出ていて笑ってしまった。

2017年度末、尾崎雄貴ソロプロジェクトとなるwarbearのアルバムがリリースされた。
まだ未聴だが、MVを見るに此方も素晴らしい出来になっていそうだ。
(どこかのインタビューでずっと酒を飲みながら作っていたと語っていて笑ってしまった。)
彼が新しくどこまでも続く険しいコンクリートの道路をまた走り始めたのを是非応援したい。

2018/02/05 追記:
warbear記事にしました。

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傑作 The XX『I See You』を聴き逃してはいないか?

I See You [帯解説・ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (YTCD161J)
I See You [帯解説・ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (YTCD161J)

去年、ふとよく聴いていたアルバムは何だろうと思い返してみるとThe XX『I See You』に落ち着いた。今までのThe XXは非常に内向性が強く、ベッドルームポップとも形容されるサウンド心地よいバンドだった。

2ndアルバムのリリースから実に4年半ぶりのリリースとなる今作は、ベッドルームから抜け出し、非常にポジティブになった印象だ。その過程には2015年リリースのJamie XX『In Colour』の影響が強いだろう。

こう書いてみると、The XXのメランコリックな良さが消えてしまったように見えるが、決してそれはないと断言できる。リバーブの掛かった味わい深いギター、儚げな男女ツインボーカルの魅力は損なわれず、むしろトラックが強固になったことにより、その部分がより強調されているように聴こえるのだ。

最初こそあまりの成長ぶりに戸惑ったのが本音だが、次第に耳馴染み気づけば去年常に頭の中を流れていた。
今作のリリースにより大きな会場が似合うビッグアーティストとなったのは確かだろう。

下記は名実ともにバンドの代表曲となった“On Hold”だ。アルバム曲もこの曲に負けない曲が目白押しなので、この曲を聴いて魅力を感じたら今でも遅くないので是非手にとってみてほしい。

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エレクトロニカ名盤 Telefon Tel Aviv『Fahrenheit Fair Enough』

Fahrenheit Fair Enough [ボーナス・トラック8曲収録・解説付き・正方形紙ジャケット仕様]
Fahrenheit Fair Enough [ボーナス・トラック8曲収録・解説付き・正方形紙ジャケット仕様]

エレクトロニカを聴き始めたのは私が大学生の頃だっただろうか。風景に溶け込むような音楽を好むようになり、日本のアーティストのAmetsubの辺りから広げ始めたのを覚えている。

エレクトロニカはいかんせんジャンル分けが難しいジャンルであるし、どの辺りから聴いていけばいいのか迷う音楽といえる。
その中でも、万人に勧められ、エレクトロニカの良い要素を併せ持った名盤がTelefon Tel AvivFahrenheit Fair Enough』であると思う。

このアルバムの匙加減とも言うべき音の配置は絶妙なのだ。それでいて確かにIDMだが、聴きなじみの良いメロディが散りばめられていてスッと受け入れることができる。

また、エレクトロニカの醍醐味でもあるグリッジビートもアクセントとして使われていたり、サンプリングミュージックの要素も持ち合わせている、まさしく入門用の一枚として相応しいだろう。

個人的には、メロディのおかげで聴きやすいさもあるが、DTMミュージックならではの無機質さも感じられ、とても街を歩くときに調和して心地よい。

下記はアルバム1曲目の動画である。
電子音の優しさとサンプリングビートの妙を楽しめる名曲である。

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