Radio Propagation -音楽レビューブログ

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有終の美、並行世界 Balloon at dawn『Tide』

Tide (DFRC-060)
Tide (DFRC-060)

関西を拠点とする日本若手ドリームポップの良心Balloon at dawnの最初で最後となるフルアルバム『Tide』がDead Funny Recordsよりにリリースされた。

Balloon at dawnはシンセフレーズを効果的に用いて、この手のドリームポップバンドが陥りがちなギターで間を埋めるだけでなく、しっかりと耳に残る極上のポップを提供できる稀有なバンドだ。

今作はこのアルバムのリリースされる前の作品『Inside a dream』『Our finder』に続く3部作目となる作品とのことで、前2作とも素晴らしい出来だったため期待せずにはいられなかった。

結果から言うと、フルアルバムとなり、音的なクオリティそしてアルバムの統一感が素晴らしい。
アルバムすべて通して聴きたくなるなるような仕上がりだ。

彼らBalloon at dawnの魅力は、高いソングライティングと瑞々しい青さが共存していることだ。
たとえあなたが学生時代や青年時代、映画のような青春を過ごしてこなかったとしても、彼らの曲は自分の経験を映画のように想起させる。
それができるバンドがどれだけいるだろう。

今作でキーとなっているテーマは、「並行世界」だと感じた。
何かがきっかけで変わる世界、現在と過去、そして変わらないもの。
MVにもなっている「hanagumori」ではドラムLRで違うパターンを使用していたり、「Alone2」では触れたことで変わったことを描いている。
日々変わらない日々を過ごしている人にとっては、この作品はハッとするものがあり、過去を思い出したり、何かを変えるきっかけになったりするはずだ。
私は「Alone2」、そして「紗幕と鉄塔」という曲がお気に入りで、初聴時は酷く心を乱した。

彼らはこの作品をリリース後、10/6のマンマンライブにて解散する。
また貴重なバンドを失ってしまったが、彼らの音楽をまた聴けることを信じて待ち続けよう。

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ジャンル分け不能 DRUGONDRAGON『どっかの誰か 誰かの何か』

どっかの誰か 誰かの何か
どっかの誰か 誰かの何か

念願の帰還。
狂気のバンドbronbabaのフロントマン西方龍のソロ、DRUGONDRAGON『どっかの誰か 誰かの何か』が 今乗りに乗ってるVirgin Babylon Recordsよりリリースされた。

bronbabaは街、人を残酷なほどリアルに表現していたバンドで、特に最新リリースとなっている『neo tokyo』は2014年リリースにも関わらず強烈な印象が残っている。

今作はそんな『neo tokyo』また更に違った研ぎ澄まされている作品であることは断言する。

バンドのほうはギター、ベース、ドラムの音に強いこだわりを感じたが、今作の音の構成の大部分は電子音とノイズの嵐、そして優しいギターだ。

ノイズにより塗り潰された音像の中に、ギターと電子音のループが包み込む。
西方氏による呟きにも取れる声が、酷く内省的に突き刺さる。

上記はバンドの前作『neo tokyo』のときのインタビューだが、その中で彼はこう語っている。

西方:街を歩いてると、不良と、爺さん婆さんと、浮浪者と、キャッチのお兄さんと、酒飲んでる人だったりするんですよ。別に隠されてはいない。

―確かに、「隠されてる」っていうのはイメージかも。

西方:それを知ってる人が何人いるかって、いないんです。

表と裏がある、なんてのは人々の勝手なイメージだ、というのはこの頃から変わっていないように感じた。
昔、このインタビューを読んで、衝撃を受けた当時を強く思い出した。

それに加えて、今作に加わったイメージは、救いがある。
ノイズによる開放感からか、電子音の暖かさか、実態は掴めないが確かに救いを感じるのだ。

このアルバムのジャンルはなんて話はどうでもいい、新たなる音楽の幕開けだ。
聴く人、良いも悪いも引っくるめて間違いなく喰らう、そんなアルバムだ。

余談だが、彼のブログがとても良い。

http://www.nishikata.info/oreryu/ore-19.html

何かが変わる気がする瞬間、あるでしょ??

きみから聞こえるんだよ

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忘れてた何かを取り戻す my letter『僕のミュージックマシーン』

僕のミュージックマシーン
僕のミュージックマシーン

かなり更新が開いてしまった。

更新していなかった間、音楽を聴いていなかったわけではなく、自分のやっているバンドの音源を作成していたので、少しチェックの頻度が減ってしまった。

今回レビューするのは、アートパンクとも評される京都の良心 my letterが去年出した『僕のミュージックマシーン』だ。

本作は一音一音に職人のようなこだわりを感じる。
ときに暖かく、ときにえぐさを見せながら、vo キヌガサの甘くて高い声がニヒルに語りかけてくるようだ。

USインディー直径とも評されるサウンドだが、どこか懐かしく匂いを放ち、日本製のフィルターを通してすっと心の隙間に入り込んでくる。
ジリジリキラキラとしたギターのアンサブルにエグく入り込むベースが堪らない。

上記はアルバム2曲目“エスケープ”のMVだ。
ストレートなドラムからの始まりが気持ちいい。
サビでコーラスとギター絡み合いから、隙間を縫うようにvoのメロディが入り込む秀作だ。

また、特筆すべき表題曲“僕のミュージックマシーン”。
切なさと、懐かしさを独特のコード感に乗せて歌われるこの曲に打ちひしがれてしまった。
是非聴いてみて欲しい。

日本語の良さを存分に感じられるバンドは希少だし、そういうバンドを応援したいと思う。

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春に、日常に彩りを haruka nakamura『アイル』

アイル
アイル

haruka nakamuraの春をイメージした全6曲入りep作品『アイル』。
ジャケットが昨今めっきりみなくなった8cm 短冊CDジャケット仕様となっていてなんとも可愛らしい。

アルバム『音楽のある風景』『光』と最近続けてきた“PIANO ENSEMBLE”としての活動に区切りをつけてからの今回のepのリリース。“PIANO ENSEMBLE”の活動作品もまた大好きで、特に『音楽のある風景』は自分の人生においての外すことはできないアルバムなのだが、名盤『grace』の世界観を引き継いでいるとのことだったので即購入した。

今作はどこまでも素朴で、聴いた瞬間に周囲の景色が色づくような不思議な魅力を持っている。

1曲目の新曲“アイル”では『grace』でもボーカルを担当していたJanis Crunchを再びフューチャーされている。
心を打つメロディと瑞々しさに、歩きながら聴いていると泣いてしまいそうになる。

2曲目“アルネ”は『grace』の名曲“arne”を再構築した内容でこれがまたいい。
優しいギターの音色が一層フューチャーされていて、ノスタルジックな雰囲気が絶妙だ。
その他曲も春にぴったりな内容で、6曲だけでなくフルアルバムで欲しかったぐらいだ。

haruka nakamuraの音楽はエレクトロニカにカテゴライズされるが、最近の彼の音楽はそのカテゴライズより一歩先に進んだもののように思える。
どちらかというと映画のサントラのような、聴く人々の人生に音楽が寄り添う素晴らしい音楽だ。
是非今作については外で聴いてみてほしい。いつもの日常が劇的に彩りを持つようになり、音楽のある風景に変わる。

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痛いくらいの瑞々しさ Gingerlys『Gingerlys』

Gingerlys
Gingerlys

2017年作品だが今の季節にぴったりだったので。
ニューヨーク/ブルックリンを拠点とする女性vo 5人組ギターポップバンドGingerlysのセルフタイトルアルバムだ。
本作はアメリカの名門レーベルTopshelf Recordsからのリリースとなっている。
個人的な印象ではTopshelfはEMO、インスト系レーベルの印象が強かったので 、Topshelfからこの好きな人には間違いなく刺さるジャケと女性voギターポップのバンドが出るのは大変興味深かった。

このバンドGingerlys(ジンジャーリーズ)は今作で初めて聴いたのだが、どこまでも瑞々しく、メランコリックで一瞬で好きになった。
ドリーミーさが絶妙な匙加減で、シューゲイズまでいかないくらいだが、しっかりと耽美さは持ち合わせてる。

女性voのキュートな魅力も持ち合わせているし、このアルバムジャケットにピンと来た人なら間違い無いのではないだろうか。

上記はアルバム1曲目を飾る“Turtledoves”だ。
正に模範的な女性voギターポップだが、シンセの音が結構エグくていいアクセントになっている。voのメロディも愛おしい。
かなり日本人受けしそうな曲展開とメロディだが、まだ少ない再生回数に驚かされる。

センチメンタルな春にぴったりなバンドだ。

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uri gagarn『For』は日本インディーズを救う歴史的な一枚になる

For
For

我らが日本インディーズの良心 uri gagarnが約5年振りにもなるニューアルバム『For』をリリースした。
以前発売されたep『Face』やシングル『Few/Owl』を経てまさに待望のリリースである。

今作を一言で表すならば、最小限の手段の中の自由さだ。
音の隙間が一層強調され、無駄な音が一切ない。
また既存の曲構成においてもuri gagarnワールドが広がっており、あえてリズムを外したり、繰り返しパートをアレンジの妙で別展開のように聞こえさせたり、まったく楽器の束縛に縛られていない。

どこか哀愁を感じさせるvo 威文橋の声とメロディもグッと来る。

曲単位の感想としては、ep『Face』からの収録曲である“Ijdb”が再録されぐっと音の締まりとまとまりが良くなっていたし、シングル『Few/Owl』もアルバムの雰囲気を損なうことなくピースがはまったような感じがした。

アルバム曲の中では前半と後半の展開の移り変わりが癖になる6曲目“Dept”や静の動の変化により激しい表情を見せてくれる“Wall”が特にお気に入りだ。

MVが公開された“Jinx”の映像も、シュールな世界観と媚を売らない硬派さが感じられるシロモノとなっている。

vo 威文橋の演技がハマり役過ぎて笑ってしまった。

今年度のベストアルバムなのではと思ってしまうほど良かった。
まさに日本インディーズを救う歴史的な一枚だ。

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元Fugaziリズム隊の新バンド The Messthetics『The Messthetics』がオルタナの傑作だった

Messthetics
Messthetics

Fugaziメンバーであるジョー・ラリー、ブレンダン・キャンティが新バンドThe Messtheticsを結成した。
そんなビッグニュースか飛び込んで来たのは年明けて暫く経ってからだっただろうか。
Fugaziには一種の崇拝とも言える憧れを持っていて、特にリズム隊が好きだった私は見逃さない訳にはいかなかった。

購入前、アルバム内より一曲“Serpent Tongue”が公開されたため、迷わず視聴した。

正直のところ、かなりストレートなオルタナだと感じた。
この曲調で攻めるなら、やはりイアンのボーカルが恋しくなってしまうなと本音は思ってしまった。
それでも先入観から購入を見送るのは良くないと買うことには決めたのだが。

結果、蓋を開けてみると絶妙なオルタナインストであり、ボーカル欲しいなといった先入観は見事に打ち崩された。
“Serpent Tongue”はアルバム内の中で、最もストレートなアプローチであり、他の曲はミドルテンポが多く、プログレにも形容できるほど複雑な曲や、重く精神的に訴えてくるクリーン主体な曲など、その内容は極めて多種なものだった。

アルバム全体で感じたのは今作のギタリストであるAnthony Pirogのフレーズの引き出しの凄まじさと、ひたすらミニマル進んでいくリズムセクションだ。
キメを重要視する昨今のインストバンドとの大きな違いはまさしくその部分である。

最も気に入った曲は6曲目“The Inner Ocean”だ。
美麗とも言えるギターフレーズとベースフレーズが見事に重なり、ちょっとした違いが楽曲に彩りを与える。
じわじわと魅せる盛り上がりに完全にノックアウトした。

往年のFugaziファンは必聴であるし、インスト・プログレ好きにも刺さる内容だと思う。
2018年上半期 化け物バンドが静かに幕を開けた。

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